オー・グッド・グリーフ

脱サラまであとどのくらい

薬指の指輪

入社三週目。思った以上に会社の居心地がよくて困惑している。まだ簡単な業務しかやらないからそう感じるだけだとは思うが、入社式前日に思い描いていた地獄のような生活は、どうやら思い違いだったようだ。

 

昨日は仕事を終えた後、サナと待ち合わせて焼肉を食べた。お腹がとても空いていたし、一日働いたという充足感もあったから、いつもよりカルビがおいしかった。

 

なんだか人並みに幸せじゃんと思ったら、ふとナカジマさんの話を思い出した。ナカジマさんというのは、前に綾瀬のライブハウスで出会ったおじさんだ。その日僕は弾き語りで自作曲を披露した。するとライブ終了後にナカジマさんが缶ビールを奢ってくれて、

「君は変な曲ばかりやっててええな!」

と褒めてくれた。

「そういう変な曲をずっとやり続けてな。だいたい皆途中でやめてまうねん。仕事が面白くなったり、結婚したり、子供ができたり。そうやって俺の周りもみんなやめてもうたわ。君はずっと続けてな。」

関西弁が正しいかはわからない。まあ概ねこんな感じだったと思う。

 

当時はまだまだ学生真っ盛りだったから、もちろん続けますよという気持ちで話を聞いていたが、会社に入ってみるとナカジマさんの言葉が重みを増してくる。

 

安定した収入を確保した上で、家庭をもったりすることに対する憧れが大きくなってくる。音楽への熱狂は日に日に小さくなってくる。

 

高校生の頃から僕は、とにかく有名になることを目標としてきた。名前が売れることこそが幸せだと思ってきた。しかしここ数日、飛び込み営業で数多のオフィスを訪問して、名前が売れない仕事は本当に無数にあるんだなと思って、でもそういったオフィスで働く人の薬指には指輪があったりして、幸せは有名無名とは全く別の話だよなあと実感している。